【Part1】Roland LX700シリーズ・電子ピアノ開発者インタビュー

【電子ピアノ開発者インタビュー】

アップライトピアノを彷彿とさせる存在感のあるデザインと、余裕のあるサイズが生む臨場感溢れるスピーカーシステム、そしてV-Piano技術をルーツとする新開発のピアノ音源。ローランドのホームピアノの最上位モデルとなるLXシリーズが新しく生まれ変わります。これまでも評価の高いLXシリーズはどのように進化したのか・・・カタログからは読み取れない魅力を探るべく、静岡県浜松市のローランド本社まで、鍵盤堂スタッフ・中山が向かいました。

到着したローランド本社で出迎えて頂いた開発スタッフの皆様。


■北川喜康さん
第2開発部長・LXシリーズ開発を統括されました。

製品企画、開発、要素技術の開発を担当


■田中郁生さん

基礎技術部長・主に音源部の技術面での開発を率います。


■高井瞬さん

基礎技術部 エキスパート/サウンドデザイナー

音源の開発に加え、音の調整、最終的なチューニングを担当


■石川真美さん

NCP開発部・ピアノの国内外のマーケティングを担当します。

 


ローランド ピアノのデザイン言語

鍵)最初に、グッドデザイン賞の受賞でも注目を集めるデザイン面からお話をお伺いしたいと思います。外観、音源、その他全ての要素を含めてこその「デザイン」であるかとは思いますが、まずはこのシュッとした綺麗な外観のデザインに至る経緯等をお聞かせ頂けますか?

LXシリーズは電子ピアノの中でも、アップライトピアノに近いデザインを持つシリーズとなっています。

今回のLXシリーズについては、ベルギーの「GBO」というデザイン会社と共同でデザインを行ったのですが、この会社とは以前より「ローランド ピアノ」全体のデザインについて議論を進めていました。その結果、ローランド ピアノらしさ、ローランド製品のアイデンティティ、経営理念、そうした全ての要素を落とし込んで「ローランド ピアノのデザイン言語」が誕生しました。そのデザイン言語を使ってデザインされた第一弾の製品が、今回の新しいLXシリーズとなる訳です。

最近は特に自動車メーカーなど、それぞれ独自のデザイン言語を用いてコーポレート・アイデンティティ(CI)を主張されている例が多く見受けられます。私たちも楽器店で見かけたときに直ぐにローランド製品だと判っていただけるデザインを確立していきたいと思っています。

例えばこの角の部分の曲線など、シャープな直線の中にも曲面を取り入れることで、毎日弾きたくなるような親しみ易さを目指している部分です。トラディショナルなアップライトピアノのデザインの中にモダンな要素を取り入れ、更に電子ピアノであることを明快に主張するようなユーザーインターフェイスの配置、そして電子ピアノの特徴であるスピーカーを美しく見せて、しかもそれをしっかり主張しているデザイン。こうした、トラディショナルな要素とデジタル要素が美しく融合した製品というコンセプトが評価され、今年のグッドデザイン賞を頂くこともできました。

デザインを進めていく上で、例えば本製品のポイントの一つである曲面についても非常に細かく突き詰めています。デザイナーの描く線をそのまま製造工程で再現するのはとても難しいのですが、今回はひとつひとつのデザインのディテールにこだわり、製品化させていきました。デザイン言語の制定から、その後LXのデザインに落とし込んでいく作業まで、数年かけておこなっています。

ちなみにこの丸いボタン、FPシリーズではじめて採用されたデザインですが、これが今回共同でデザインした「GBO」との最初のプロジェクトでした。FP-90のデザインは特にヨーロッパにて高い評価を頂いたので、この会社とのコラボレーションがピアノ全体に拡大していったのですが、ホームピアノというマーケットは欧米はもちろん、日本や中国など、世界中の様々な地域のニーズにあった製品開発が非常に大事です。こうしたホームピアノに必要とされる要素をしっかり伝え、すり合わせていく作業が非常に難航した部分です。例えば日本の一般家庭のリビングや子供部屋などの実際の写真を見せたり、一緒に楽器店で各社の製品をチェックしたりすることでニーズを理解してもらい、製品デザインに落とし込んでいきました。

鍵)最上位モデルの電子ピアノ、となれば張り切って大きなやつ作っちゃいますよね、普通なら(笑)。

はい(笑)。LXシリーズは非常に大きく見えますが、奥行きは凄く短いんですよね(3モデルとも50cm以下)。日本の家庭に設置できる現実的なサイズ感は重要です。

グランドピアノの鍵盤タッチを追及

鍵)LX708/706の2モデルのもう一つのポイントといえば、やはりこの鍵盤でしょうか。

はい、今回新規開発したのがこの「ハイブリッド・グランド鍵盤」になります。スタンダードモデルのLX705で採用しているPHA-50という鍵盤が持つ、樹脂と木材のハイブリッド構造を更に発展させたものとなります。細い樹脂部分を木材で挟み込んだことにより、中身の詰まった剛性感のあるタッチを実現したPHA-50の特徴はそのままに、今回は鍵盤端から支点までの距離をより長く取り、ハンマーの長さも延長しています。特に前者については中型のグランドピアノと同等の支点までの距離を確保しているため、鍵盤の手前側と奥側との間のタッチの違いが軽減され、更なる弾き易さに繋がっています。

当社調べでは、電子ピアノでは鍵盤端から支点までの距離という点で、このモデルが一番長い距離を持っていると言えるでしょう。また、支点までの距離に加えて、ハンマーの形状を長くしながらも、配置や設計を工夫することで、製品自体の奥行きは短くすることができました。

理想的な鍵盤を追求するため、例えば接触部分の構造をアコースティックピアノと同様の金属ピンとフエルト素材にした方が良いのではないか、長さについてももっと伸ばした方が良いのではなど、数年前から色々な実験を繰り返してきました。鍵盤端から支点までの距離と、ハンマーの重さと位置のバランスなどのタッチに影響を与える要素について、打鍵時の弾き応えが良くなる効果的なポイントを絞り、最終的に今回のハイブリッド・グランド鍵盤の仕様が決まりました。

すると今度は、「これをどうやって製造するのか」という壁に突き当たるんですよね(笑)。鍵盤という大きな加重が掛かるパーツで、これだけの長さを確保しながら、剛性と耐久性、精度を両立させることは非常に難しいチャレンジでしたが、生産工場と連携し試作を重ねることで実現することができました。

ハイブリッド・グランド鍵盤とPHA-50の鍵盤パーツの比較。

鍵盤を長くしようとして、PHA-50からハイブリッド構造部の樹脂と木材の両方を延長することも考えたのですが、これ以上の長さになると木材自身の反りや捩れなどの問題が浮上します。このため、樹脂パーツ部分のみを延長し、さらに内部にハニカム構造(※)のリブを新たに採用することで剛性を確保しています。


長いハイブリッド・グランド鍵盤の支点近くに設けられた、ハニカム構造の補強リブ

※ハニカム構造:蜂の巣のような六角形のセルを敷き詰めた構造材。軽量な中空構造ながら高い剛性を確保できるため、航空機の翼部パーツ等に用いられています。

鍵)これだけ長い構造で、支点部が樹脂製だと耐久性の面で不安な部分もあるのですが・・・

もちろん、ノーメンテナンスが大前提のホームピアノですから、耐久性に関しては万全を期しています。100万回以上の打鍵テストに加え、グリッサンドも数万回往復する耐久テストが定められています。紫外線照射や鉄の錘(おもり)を鍵盤の上に落としたり、といったテストも行っています。また猛暑の日本ですから、木材の接着面も心配されるところですが、様々な条件下・・・例えば煮沸テストを行っても剥がれないことも確認しています。今回、PHA-50鍵盤同様に、スタビライズ・ピンを搭載していますので、鍵盤の横方向の遊びも非常に少ないです。斜めからの打鍵フィールも良いので、大きく音が跳ぶ様な演奏時にその違いを感じて頂けると思います。

耐久性という意味では、100万回以上の打鍵というものはかなりの回数ですし、また、ローランドではホームピアノも業務用のMI製品も、品質基準に違いを設けていません。プロの過酷な現場での使用に耐えうる製品と同等の品質が、ホームピアノにも適用されている訳ですね。実際、20年以上前のピアノを今でも使っている方も多くいらっしゃいます。壊れなければ、新しいピアノを買う必要もない訳ですから、それはそれで悩ましいところでもあるのですが・・・(笑)

鍵)なるほど、安心しました(笑)。ちなみにホームピアノに限らずステージピアノ、他社製品を含め以前は非常に重い鍵盤タッチものが多かったのですが、近年は軽めの製品が増えてきている印象です。こうしたタッチの傾向も、ローランドが早い時期から採用している記憶がありますが、どのような意図があるのでしょうか。

私たちが現在追求しているのは、グランドピアノの鍵盤タッチなのです。グランドピアノの鍵盤は、アップライトピアノと比べて構造上、初荷重はそれ程重くないんですよね。確かに以前のピアノタッチ鍵盤は、電子ピアノにどうしてもついて回る「音が軽い」という先入観を補正したり、一般の人にとっても馴染みのあるアップライトピアノのタッチに近づけたり、といった目的で重めの「演出」が施されていた経緯があります。

しかし今回の鍵盤では、これから触れる「ピュアアコースティック・ピアノ音源」とのマッチングもあり、普段グランドピアノを弾いている方にとっても、アップライトピアノを弾いている方にとっても違和感のないタッチが実現できているかと思います。

鍵盤振動機能

鍵)鍵盤タッチを言えば、LX708にて今回はじめて搭載された「鍵盤振動機能」。このド直球なネーミングからも出来たてホヤホヤ感満載(笑)の新機能、非常に気になります!

この振動機能とは、実際のアコースティックピアノを弾いたときの弦の振動を演奏者にフィードバックする機能です。実際のアコースティックピアノを弾いたときの鍵盤の振動を測定してみたところ、思っていた以上にハッキリと振動していたのですね。打鍵したときのフィーリングや弾き応えといった部分に、この鍵盤の振動が密接に関係していることが数値的にも確認できたので、この機能を搭載することに決めました。

場所的には、鍵盤を支える「サブシャーシ」と呼ばれる部分があるのですが、この下側に振動素子を取り付けました。打鍵すると、その信号によって振動素子が震え、サブシャーシを介して鍵盤を物理的に振動させるという構造です。振動させる信号は、音源部のピアノ音の中から、振動に適した要素を抽出しています。特に低域を弾いたとき、その振動がリアルに感じられる様にチューニングしています。

鍵)自然すぎて、意識しないと気づかない感じですね。元々、スピーカーを内蔵している電子ピアノなら、ある程度の音量で演奏すればこうした振動を感じることができると思うのですが・・・

確かに音イコール振動ですから、スピーカーを搭載した楽器ならば近いフィーリングは感じられるものですが、小音量やヘッドホンを使った練習時でも同様の感覚を実現したかったのです。但し効果の強さは音量に比例させているため、小音量での演奏時は不自然さの無い、さりげないものになっています。

デフォルトではヘッドホン使用時の振動機能はOFFになっているのですが、これを入れると・・・

鍵)おお!伝わってきますね!

ヘッドホンを付けて練習すると感じる物足りなさは、この指先へのフィードバックが無いことが大きな要因のひとつです。指先にこうして振動が返ってくるだけで、ヘッドホンを付けた状態でも弾き応えを感じられますよ!

ホームピアノの鍵盤ユニットに搭載されるコンパクトなサイズの振動システムは他に無いかと思います。小型であることで、LXに搭載できたんです。

鍵)ちなみに外からは(ヘッドホンを外す)・・・大きくはないですが、ちょっとだけ振動している音が聞こえますね。

この振動成分の抽出にも苦労しました。派手に振動させることもできるのですが、そうすると音漏れが大きくなったり、特定の帯域だけが共振して変な音が出てしまったり・・・。効果的な振動成分を元のピアノ音からプロセッシングするのも苦労した部分です。

社内でも最初のプロトタイプは散々な評価でした(笑)。試した社内のスタッフが一様に声をそろえて「気持ち悪い!」と。何度も心が折れかけましたが(笑)、何度も試作とチューニングを繰り返すことで自然なフィーリングにすることができました。

鍵)これ、ステージピアノでも欲しいですね(笑)。あとは、ピアノ以外の音色・・・例えばクラビやハープシコードみたいな、指先にビンビン振動が来る系の楽器にも搭載されたら嬉しいですね。

このピアノで好評が得られたら、他製品への応用も実現していけたらいいですね。

 


次回、いよいよ核心部の音源、そして空間表現の秘密に迫ります!

Part2はこちら

 

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