【moog】minimoog MODEL D

【Everything in Its Right Place.】

トム・ヨークの詞が脳裏に浮かびました。新しいMinimoog Model Dに暫く向き合った後の率直な感想です。

「全てが、あるべき場所に」

新しいMinimoog Model Dシンセサイザーは、オリジナルのサウンドのみならず、「演奏する」という体験そのものをも引き継いだ「楽器」そのものでした。

改めて説明する必要が無い程、数多くの名手に愛され、今尚数多の名曲・名演を生む電子楽器界黎明期の傑作にして金字塔「Minimoog Model D」(Model A~Cはプロトタイプのため、一般に流通しているオリジナルMinimoogは全てModel Dです。

勿論、本家”Voyager”を筆頭に、そのサウンドを引き継いだ便利な楽器は多数存在はしていますが、オリジナルに慣れ親しんだプレイヤーにとっては、何れもオリジナルMinimoogの完全な代替機にはなり得なかったのではないでしょうか。

その答えはシンプルです。Minimoogという楽器は、ツマミやスイッチの操作も鍵盤と同等演奏行為だからです。それこそ、「目を瞑っていても音作りができる」程Minimoogに慣れ親しんだプレイヤーにとって、微細なレイアウトの違いは演奏性を大きく損ねる部分。リヤピックアップの固定ネジに殆ど干渉しているのに、ストラトキャスターのボリュームノブの位置が今もなお変わらないのと同じ事です。メモリー回路を介さないダイレクトな反応、ツマミの位置がそのまま音に反映される点、ここも重要なポイントです。
そのサイズ、鍵盤からの距離を含め、筐体そのものを完コピすることは、単なる懐古趣味の復刻でなく、楽器としての演奏性を尊重してくれたという点で、非常に意義のあることだと解釈しています。

基本的に、その操作性は勿論、パネル上の操作と出音との関連はオリジナルのMinimoog Model Dと同じ感覚。基本的にオリジナルで出来ることは、全て網羅・・・「Minimoogを弾いている」という気分の高揚感も含めてです(笑)。新品故、ちょっと硬めのセンタークリックのあるピッチベンドホイールで綺麗な半音ベンドをキメるのは正直難しいかもしれません。でも、これを含めてMinimoogです。ほんの僅かな力の掛け具合で驚く程微妙なニュアンスを表現できます。精進あるのみ。

新品の楽器で、この体験が出来ることこそが、新しいModel Dの核心であり、存在意義です。こっそり実装された新機能は全てオマケである、と断言してしまいましょう(笑)。

とはいえ新製品レビューなので、各新機能にも触れておきましょう。あくまでオリジナルとの差分のみ。他はホントに一緒なんですから(!)

■LFO
Minimoogヘヴィーユーザーが真っ先に改造するポイント(笑)として有名な部分。Minimoogは専用のLFOを持っておらず、オシレーター3を低周波に切り替えることで代用しています。専用LFOはシンプルなビブラート専用、これによりオシレーターを3基重ねた状態でビブラートを掛けることが出来るのですが、正直Minimoogのファットなオシレーターは「2つで充分」、3基重ねは通常の用途では○郎のマシマシ並にトゥーマッチ。オシレーター3をソースに使えば、三角波以外のノコギリ波でのモジュレーションやオーディオ帯域でのFMなど、トリッキーな使い方が楽しめるので、極力こちらを使うのが良いと思います。

■モジュレーションルーティング
パネル右側のモジュレーションセクション、一見するとオリジナル同様に見えますが、さりげなく下端に2つのロッカースイッチが増えています(LFO改造もこの場所にスイッチやノブを増設することが多いですね)。LFOの増設に伴うモジュレーションソースの切替えに加え、オシレーター3の代わりにフィルターのエンベロープを選択することが可能になったため、Minimoogでは不可能だったピッチエンベロープを使った音作りが実現しています。シンセブラスっぽいアタックを作ったり、キックドラムのサウンドを作るのに良いですね。

■DECAY/GLIDE端子
ピッチベンド/モジュレーションホイール奥にはディケイ→リリースとグライド(ポルタメント)のON/OFFを切り替えるロッカースイッチと、同等の機能を足元でコントロールするためのフットスイッチ端子が用意されていました。しかしこの端子、現在では殆ど流通していない特殊なサイズのため誰も使っていない端子の筆頭。今回のModel Dでは順当にオミットされて、前述のLFOスピードコントロールに置き換えられています。実は、ディケイコントロールはダンパーペダル的な使い方が可能でそれなりに効果的なのですが・・・


■フィードバックループ
フィルターへの外部入力端子、ラインレベルのオーディオ出力、ギターアンプ等に繋ぐためのローレベル出力。この外部入力とローレベル出力をパッチケーブルで繋いでループさせ、ブリっとした歪みを生み出すテクニックは定番です。明るく光るオーバーロードインジケーターが緊張感を誘う、スリリングな技も内部でフィードバックループが設定されたことでパッチケーブル無しで楽しめます。更にフィードバックレベルが高く設定されているのか、オリジナルよりもブーミーな領域まで到達します(程ほどの“オイシイ”領域を探るのが楽しい!)。もちろん、外部入力端子にプラグを挿せばそちらが有効になるので、オリジナル同様に様々な素材をMinimoogのフィルターで加工できます。MIDIコントロールを併用することで、オリジナル以上に使い勝手が良くなりますね。

■鍵盤
流石にオリジナル同様の厳つい金属フレームのキーベッドではなく、近年のVoyager等と同様のFATAR製ウエイト付き鍵盤です。演奏面に直結する部分がオリジナルと違うのは懸念事項でしたが、ちょっと強めのバネっぽいキータッチとブッシュの感触はなかなかのもの。そのルックスとツマミ類の触り心地の影響か、全く違和感が無いのは正直驚きでした。モチベーション、大事です。

あと、整備不良のMinimoogでよく出現する「浅く弾くとピッチが派手に泳ぐ」現象には、構造上将来的にも悩まされることはないでしょう。例えばミシェル・コロンビエの「SUNDAY」でのハービー・ハンコックのソロで出現するコレが再現できないじゃないか!というのは完全な負け惜しみです。素直に羨ましいです。
また、近年のキーベッドを使用することでポリフォニックでの外部MIDI出力も可能、誰もMinimoogにそれを求めてはいない気がしますが、自宅でマスターキーボード代わりに使うなど、なかなかに背徳的な感じでアレですね。

■外部コントロール入出力
前述のMIDI端子装備に加え、CV/GATEの出力も用意されています。個人的にはMinimoogはこの上なく完成された単音楽器なのですから、あまり複雑なパッチを組むのは好みではないのですが、アフタータッチやベロシティをパッチできるのはMinimoogの新たな可能性を探ることができそうです。勿論単なる電圧のコントロール信号ですから、ユーロラック等と相互にパッチングすることも可能です。

また、ピッチ/フィルター/音量+トリガーのコントロール入力端子はオリジナル同様に用意されていますが、トリガーのみオリジナルのSトリガーから一般的なVトリガーに変更、端子も一般的な1/4″ジャックとなっています。これもユーロラック等との親和性を考慮した場合当然とも言える仕様変更ですが、フットスイッチを繋げば簡単に音が出せたS(ショート)トリガーでないのはちょっと残念ですね。誰も困らないですが(笑)。

これらCV/トリガー(ゲート)の入力は、主にMIDI-CVコンバーター等でのMIDIコントロールの際に使用されていました。ピッチ入力はグライド回路を通らない、オシレーター直のコントロールなので、グライドやキーフォローがそのままでは使えないのがオリジナルの欠点だったのですが、MIDI搭載で一挙に解決です。本体を演奏しないと100%の性能を発揮できなかったオリジナルとは一転、ピッチベンドの微妙なニュアンスを含めMIDI経由で完璧にコントロールできてしまうのは、Minimoogを愛でる愛好家としては少々複雑な気持ちです・・・。

以上、ちょっとムキになってオリジナルMinimoog Model Dを擁護しようと頑張ってみましたが(笑)、今Minimoogを手に入れるとしたら、新しい方を選んでしまうかもしれません。オリジナルを愛でる者としては非常に複雑な気持ちですが、限定生産とはいえ、生産完了より30年以上が経過し、減る一方だったこの稀代の名機が再び蘇ったことは、素直に喜ばしく思います。

勿論、スペック的な面や一音あたりの単価(とはいえ、このプライスは破格だと思います)といった面で冷静に検討するならば、より優れた「ツール」は幾つか挙げられるかと思います。しかし、往年の名手が受けたインスピレーションを感じ、弾きこなす喜びを享受できる「楽器」として見るならば、掛け替えの無い一台となることでしょう。音楽は「効率」だけでは楽しめません。不自由を楽しみ、伊達と酔狂を愛することが、創造力の源となり得るのですから。

■Moog MINIMOOG MODEL D
http://www.ikebe-gakki.com/ec/pro/disp/1/516277

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