2019年の『COMME des GARÇONS SEIGEN ONO』~店舗に設置するオノ セイゲンの「音」。

店内に音楽が流れる・・・

この店舗においては、とても特別な事件。
コム デ ギャルソン青山店。
「初めて店内で音楽が流れている。」

BGMではなく、あえて“インスタレーション”と呼ぶ、音の設置。
自ら、音を置く、この方。(写真左)
オノ セイゲン /SEIGEN ONO

「東北ユースオーケストラ収録のバックステージにて坂本龍一監督(写真右)と。」

デザイナー 川久保玲の依頼を受け、1987年より進行された「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」のショー用の音楽。
その作品集はアルバム『コム デ ギャルソン セイゲン オノ』Volume 1(88年)、同 Volume 2(89年)としてリリースされ、いまだ幅広いシーンにおいて伝説として語られています。

レコーディングからマスタリングまでを手掛ける重鎮エンジニアとしてその名を知られるオノ セイゲン氏。
音響ハウスからキャリアをスタートしたオノ セイゲン氏は、その後、フリーのエンジニアとして、80年代初頭より、坂本龍一、ムーンライダース、清水靖晃、近藤等則らの作品にエンジニアとして携わります。
そのもうひとつの顔、ミュージシャンとしてのオノ セイゲン、84年、デビューアルバム『SEIGÉN』をリリース。「映像作品への音楽」として制作された作品がまとめられたそのアルバムは、国内リリース後、世界各国でもリリースされることになります。
『SEIGÉN』の楽曲においては、清水靖晃をはじめ、山木秀夫、笹路正徳、白井良明ら名手達とのコラボレーションによる手法も導入され、その後の氏の音楽制作方法論が早くも形を見せていました。
その後、ヴァージン UKと契約、そして、87年。
コム デ ギャルソン・デザイナー 川久保玲より

「誰も、まだ聴いたことがない音楽を使いたい」
「洋服がきれいに見えるような音楽を」

という依頼が来ます。
コム デ ギャルソン、パリ・コレクションの87年9月から5回のショーで流れたオノ セイゲンのオリジナル作品達。
そこに聴く、NYダウンタウン・シーンを代表するアーティスト、アート・リンゼイ / ARTO LINDSAY 、ジョン・ゾーン / JOHN ZORN、ビル・フリゼール / BILL FRISELL 、ジョン・ルーリー / JOHN LURIE らの音。
「(当時のNYダウンタウン・シーンは)エンジニアとミュージシャンの境目が曖昧で、仕事が速い。そして、セッションごとにミュージシャンが交替するので、この人とやればこういう面白いことができるとか、わかってくる。」(「コムデギャルソン × オノ セイゲン 革命はいかにして起こったのか インタビュー」https://columbia.jp/seigenono より)
川久保玲からの
「誰も、まだ聴いたことがない音楽を使いたい」、「洋服がきれいに見えるような音楽を」
その「抽象的かつ本質的な言葉だけ。」(同上)を軸に、ニューヨーク、パリ、リオデジャネイロ、東京で録音され、オノ セイゲンによりまとめられた、音の絵画。それは、「キャリアにおけるマイルストーンになった。」(同上)と自らも語る作品群として、世に姿をとどめます。

そして、2019年、春。

オノ セイゲンが自らリマスタリングした30周年記念盤
『COMME des GARÇONS SEIGEN ONO』
『Vol.1』&『Vol.2』すべての楽曲を収録したこちらは、“2枚組モノラルLP”と、SACD層に「モノラルLPのラッカー盤マスターを『KORG Nu1』で取り込んだ」音源がプラスで収録された“2枚組ハイブリッドSACD”(SACD層40トラック175分/ CD層は25トラック110分)で、

更には、未発表音源で構成された
『CDG Fragmentation』
こちらは、“ステレオLP”と、“ハイブリッドSACD”(「SACD層は、M1-M6はノーカットでCD層より25分程度長い収録時間」)で、

新たにデザインされた井上嗣也による印象的な“カラス”モチーフのジャケットをまとい、リリースされました。

そして、この2枚の新装リリースにあわせ、まさかのコラボレーションが展開されます。

2019年4月、平成から令和に変わるゴールデンウイークの初日。

“コム デ ギャルソン青山店で、『COMME des GARÇONS SEIGEN ONO』が流れる。”

平成の30年間を通り抜け、今なお鮮烈さをとどめる強靭な作品のクオリティー。

現場の「コム デ ギャルソン青山店」には、公開前日まで、急ピッチで進められた新設機器群に向かうオノ セイゲン氏の姿が。
普段のスタジオ環境とは大きく勝手の異なるシーリング・スピーカーからの音に目を向けるオノ セイゲン氏。
「自分の作品、しかもマスタリングまで自分でやってるからね。」(オノ セイゲン氏)
“自身が作り、ミックスし、マスタリングまで行った作品”の音の出力を 自身でコントロールする、という、常識外の才。

そして、コム デ ギャルソン青山店において、そのOPEN以来“初めて店内に音が流れる”、という驚きの事実。
そう、コム デ ギャルソン青山店の店内は“無音”だったのです。
それゆえ、通常の店舗で見られるシーリング・スピーカーや設備用音響機器も、今回のイベントに合わせて新規に導入されました。
店内の天井には6基の『JBL Control 45C/T』スピーカー、アンプには『CROWN CT8150』が、そしてプロセッサーとして『DBX DRIVERACK VENU360』が、新たに店舗に設置され、プレーヤーとしてDENONのSACDプレーヤー『DCD2500NESP』とネットワークプレーヤー『DNP800NESP』が用意されました。

「店内全体で明瞭に聞こえる、かつ決してどの位置でもうるさくなく。」(オノ セイゲン氏)
店舗用の設備音響機器を前にするオノ セイゲン氏。
「レジ前あたりは特にレベルを落としてあり、正面入り口から奥のエリアに向かってタイムアライメントをかけて」(オノ セイゲン氏)
店内の6基のスピーカー、ひとつひとつに細かなセッティングが施されます。
スタジオやライブ・スペースとは異なる、“店舗”の中で繰り広げられる明確な音のイメージがそこにはありました。

 

改元を目前に控えた4月某日。
コム デ ギャルソン青山店には、井上嗣也によるレコード・ジャケットのデザインが大胆に配されました。

オノ セイゲン、自らのセッティングによるサウンド環境で、コム デ ギャルソン店舗に流れる、『COMME des GARÇONS SEIGEN ONO』

時代を超えた、奇跡的迎合。

「名前は出せませんが、初日に少し再調整したすぐ後の時間に、店舗で偶然お会いした、音楽業界で音にもうるさい事で知られる誰でも知ってるビッグアーティスト・Oさんが、店内くまなく歩き回ってくれて、『どこもよく聴こえてる、硬くなくていいわね、スピーカーは何?』と。こういう裏方の仕事をプロ中のプロに認められ、これは嬉しかった。ひと安心しました。」(オノ セイゲン氏)

会期の開始直後のセッティング。
「リミッターの設定が変わるので、音量は小さめです。低音まで柔らかく膨らましても、音はボケずにスピーカーにも負荷はかからない様に。現時点では、dbx driverackのリミッターは-36dBでThresholdがかかり始め、小さな部分は持ち上がり、決して大きい音にならない、という設定。-24dBにすればパーティできるくらい持ち上げられるけど、それはないね(笑)」(オノ セイゲン氏)

その後も、会期が始まった数日後に更なる再調整が加えられます。

閉店後の店内、リミッターとEQの更なる追い込み、各所の音量の微調整がオノ セイゲン、みずからの手で重ねられます。
そこでは、接客が行われる「現場」であることからの配慮、居合わせた店舗スタッフの方々への「音」に関するヒアリング、そして接客しやすい、会話をしやすいポイントをレクチャーする姿も。
それは、より多くの人々への“心地よさ”を提供する為の真摯なプロフェッショナルの姿勢。

コム デ ギャルソン青山店に流れる、BGM、ではない、確実な存在感を持つ「音」。
世界が焦がれる洋服が陳列、販売されるスペースに置かれた、オノ セイゲン、その才の一端に触れることができる、稀少な空間。

今だけ。

2019.May
(レポート by S.N.)


追記:
イベントと共に販売が開始された、レコード・ジャケットのデザインがあしらわれたCDG製の限定Tシャツ。「赤のTシャツ」はゴールデンウイーク開始早々に売り切れ。
そして、コム デ ギャルソン青山店で同レコードまたはCD(SACDハイブリッド)を購入すると、CDGオリジナルのトートバッグがプレゼントされるという特典も!

オノ氏からもらったここだけの情報によると、「来週再入荷するらしい」、です!

◆Comme des Garçons 青山店
http://www.comme-des-garcons.com/stores/index.html

◆日本コロムビア特設ページ:
「コムデギャルソン × オノ セイゲン 革命はいかにして起こったのか インタビュー by 松山晋也」
https://columbia.jp/seigenono/ <<<サイト内のリンクから全曲試聴できます!

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