【Universal Audio現地レポート】Part1:父子の絆が繋ぐ「良い音」への探求


2018 NAMM Show Universal Audioブース

Apollo、Arrow、そしてUADプラグイン、新製品OX・・・現在のレコーディング業界で欠かすことのできない存在であるUniversal Audio社ですが、そのルーツは現代レコーディングの父とも言われる伝説のエンジニア、Bill Putnam Sr.(ビル・パットナム・シニア)によって1958年に立ち上げられた会社に由来します。

LA-2A、1176、610、そして1620・・・Universal Audio、Studio Electronics、そしてUreiといったブランドからリリースされた彼の設計によるアナログ・コンソールやアウトボード類は、50年以上の歳月を経てなお、第一線で活躍しています。

その歴史は彼のキャリアと共に一旦は幕を閉じますが、その偉業を間近で見続けていた二人の息子、James PutnamとBill Putnam Jr.の兄弟によって1999年に再興されたのが、現在のUniversal Audio社。前述のデジタル・レコーディング関連製品だけでなく、父親の遺したクラシック・アナログハードウェアを忠実に再現する両極端なベクトルが共存する、非常に特殊で、その実情は大変興味をそそられる存在です。

そんなUniversal Audio本社を訪問する貴重な機会を頂き、NAMM Show閉幕直後にイケベデジタルタワー・安藤が現地へと向かいます。

宿泊地のサンフランシスコから101号線を南下、アップルやGoogle、Yahoo!他様々なIT企業の本拠地が並ぶ、所謂シリコンバレーの市街を抜けて17号線へ。緑深い山道を40分程サンタクルーズ方面へ車を走らせると、小さな山あいの街スコッツバレーに到着します。

ここが今回の目的地、Universal Audio本社。期待が高まります!

アメリカらしい、広大な敷地を贅沢に使った2階建ての社屋。エントランスを入ると、大きな吹き抜けのロビーが私達を迎えてくれます。

温暖な気候のカリフォルニア。中庭にはアーモンドの木が花を咲かせています。

 ロビー内にはUniversal AudioやUreiブランドの名作アウトボード達(一部はNAMMブースの展示用に持ち出されていました)と、輝かしいトロフィーの数々が誇らしげに陳列されています。今年の受賞分の展示場所、増やさないといけませんね。

「音」を視覚化したオブジェ。

 

と、ここで創業者Bill Putnam氏の息子で、現在のUniversal Audio社の代表Bill Putnam Jr.氏が登場、早速社内を案内して頂きました。

 

-Bill Putnam Jr.氏によるファクトリーツアー、スタート-

「Universal Audio(以下UA)へようこそ!本日は遠いところからお越しいただきありがとうございます。私達がスタートした、現在のUAはサンタクルーズにある私の地下室から始まり、その後ガレージへと拡大していき、次第に大きな規模のビジネスに発展していきました。現在の建物に移転したのは5年前になりますが、ここではアナログ機材の製造、研究開発、セールス/マーケティング業務が行われており、更には本格的な機能を持つスタジオを有しています。シリコンバレーからも近く、海にも近く、周辺には多くのミュージシャンやサーファー、そして有望な大学生が住んでいます。本当に良い環境ですね。

UAのスタッフは皆が楽器好き、音楽好きで、それぞれが優れたプレイヤーでもあります。その一環で、私達は時々音楽イベントを行い、技術者やパフォーマーをこの特別な“ブルーストライプ・ラウンジ”と呼ばれる場所に招待しています。こうした場で相互交流を深めることが、当社の製品開発に繋がっています。」

各部署のデスクに掲げられたスタッフの名札もこの通り。1176″Blue Stripe”の存在がUAにとって如何に象徴的で誇らしいものであるかが伺えますね。

「ではまず、こちらに展示された機材や写真を見ながら、私達の歴史についてお話いたしましょう。」

■Universal Audio社の歴史とOcean Way Roomsプロジェクト

「私の父(Bill Putnam Sr.)が1940年代~50年代にシカゴのレコーディングスタジオでUniversal Audioの仕事を始めたことはご存知かと思いますが、それは素晴らしい場所でした。父は適切な時期に適切な場所に居たといえるでしょう。

そこには音楽がありました。シカゴにはブルースと、黎明期のロック&ロールがあったのです。Muddy Waters、Willy Dixon、John Lee Hooker、そしてT-Bone Walker、Chuck Berryなど…

しかし、父はビッグバンドに集中していました。Ellington、Stan Kenton、Count Basie、Ella Fitzgerald、Sinatraなどシカゴのすべてとも言っていいほどのレコーディングを行いました。そこは本当にそういうことが起こった場所なんです。 そして、そうした中である出来事が会社を立ち上げるきっかけとなりました。
”ハーモニカット”と呼ばれるバンドがありました。5人のとても優れたプレイヤーが異なるハーモニカを駆使して、多くのジャズスタンダードのハーモニカアレンジを演奏していました。その中でも、素晴らしいサウンドのベースハーモニカがありました。
父は彼らの音源をリリースさせようと奔走しましたがレコード会社の反応は芳しくなく、結果として自身でレーベルを作り、“Peg ‘o my Heart”という曲をリリースしました。父のレコーディングによるこの作品はミリオンセラーとなり、結果として事業を興す資金を得ることができました。これが彼のストーリーの大きな転機となったのです。」

「人工的なリバーブを効果的に使ったそのサウンドは、当時のミュージシャンやエンジニアに大きな影響を与えました。ミキシングエンジニアBruce Swedienは、”この様なサウンドを聴いたことがない。私もこんなレコードを作りたい。”と言い、父のスタジオを訪れ”私を雇ってくれませんか?”と言ったのです。Bruce Swedienは父の作品の影響を受け、父と共に働き、多くのことを成し遂げてきました。Michael Jackson、Quincy Jonesと… それはすべてシカゴで起こったことの一部です。

その後、父は60年代にカリフォルニアに引越し、Frank Sinatraの推薦や指揮のもと、United Western Recordersでの仕事を始めます。

寒いシカゴに暮らす人々は、温暖な西海岸やラスベガスへの憧れがありました。シナトラもラスベガスのSandホテルに滞在することが多かったため、彼はラスベガスにレコーディングスタジオを作っていました。シナトラは父にサウンドシステムの刷新を依頼し、新しいサウンドをシステムをホテルに導入することで、ライブレコーディングが可能な環境を構築しました。そこから“Live at the Sands”など多くの素晴らしいレコーディング作品が生まれることになったのです。

当時は、チューブの610コンソールとよく似たコンソールがレコーディングに使われていました。これは独立したチャンネルストリップモジュールを持つ最初のコンソールであり、不調なチャンネルだけを取り出して修理することができました。これは現在、Neil Youngのコンソールとなっており、彼はこれを含む2台のUA製コンソールを使い分けて現在もアルバムレコーディングを行っています。一つは“グリーンボード”と呼ばれるもの、もう一つは初期の“ブラスボード”と呼ばれる、先にお話した初期のUAコンソールです。」

UA 610コンソールの写真の前で

「Neil Youngは非常に広い牧場に暮らしており、車、列車(!)、そしてレコーディング機材の熱心なコレクターでもありました。彼はこれらUAコンソールに加え、31個の拡張モジュールを所有していました。後日、私達はその中の27個を手に入れることができたので、今後の製品に活かしていきたいと思っています。

当時私達は、彼のコンソールをお借りして、徹底的に解析することができました。その結果得られたものは、私達の製品である610 Unisonマイクプリの一つになっています。可変インピーダンスを持つApolloインターフェイスにマイクを接続すれば、デジタル環境であってもマイクがプラグインと相互作用を行えるように設計されているのがポイントです。」


UA 610プリアンプ

「また、10年程前に私達がこの写真に写っている610コンソールを手に入れた際、徹底的にメンテを行った上で、古いビルの一室でレコーディングセッションを行いました。とてもスタジオ、と呼べる環境ではありませんでしたが、あえて昔ながらの手法で試してみたのです。この610コンソールにはセンドが付いていたので、その中の一つをバスルームに送り、昔のレコーディングの様に物理的なエコーチェンバーとして使ってみました。リアル「風呂場リバーブ」ですね(笑)。

そうして録音されたサウンドは素晴らしいものでした。専用に設計されていないバスルームの反射音や残響音ですが、そのアコースティックでナチュラルな響きは多くのプラグインよりも優れていたのです。

この結果は、何も驚くべきことではありません。リアルなアコースティック環境であれば、たとえリバーブが聴こえなくても、ただブレンドするだけでサウンドが綺麗にまとまります。良い音とは何か?私は子供の頃からビックバンドの演奏をライブやスタジオの環境で耳にしており、そのリアルな響き、フェーダーの動きに応じて変化するサウンドを体感してきました。決して勉強して得た知識ではなく、頭の中に蓄積された経験が、良い音を判断しているのです。昔からこれはとても自然なことだと思っていたので、物理的な反響音がプラグインで得るリバーブよりも優れていたとしても、何ら不思議ではありません。

このセッションの結果が、後のOcean Way Roomsプロジェクトをはじめる切っ掛けとなりました。ご存知の通り、無数のミリオンヒットを生み出してきたOcean Way Studioは、私の父がオーナーであったUnited Western Studioです。その後80年代にAlan Sidesが買い取り、現在のOcean Way Studioとなったのですが、そのスタジオの響き、サウンドは私が覚えている父のスタジオのままでした。このスタジオのサウンドをUADプラグインで再現することに対する想い、お判りいただけますよね?」

Ocean Way Roomsプロジェクトにて、ルーム内にセッティングされたマイクの写真

「これらは、Ocean Way Roomsで使用したマイクの一部です。このプロジェクトでは、様々な楽器をルーム内で演奏した時の放射パターンを測定・モデリングしたのですが、私の耳にはこうして生まれたコンボリューションリバーブのサウンドに何とも言えない違和感を感じたのです。何が間違っているのか・・・その原因を探る過程で、『測定値そのものが正しくない』という結論に至りました。

それは、『楽器そのものの音』ではなく、ルーム内に設置されたマイクとスピーカーの様に響いたのです。例えばドラム、ピアノ、エレキギター(アンプ)、ホーン・・・それらが楽器から放射される方向とエネルギーは全て異なる結果を生みます。私達はこれら実際の楽器と同じように異なる反射パターンを測定し、モデリングする方法を考えなければいけませんでした。」

「私のこうしたリバーブに対するこだわりは、父親譲りであると言えます。彼もまた、人工的にナチュラルなリバーブを生み出すことに興味を持ち続けていました。彼は私達が追体験したように、実際の階段やバスルームを使用したエコーチェンバーを設計することから始めました。一方で、金属でできたオイル缶の響きをリバーブとして実用化することも試みるなどの試行錯誤の中、庭にあるホースまで活用したのは皆さんご存知でしょうか?

UADプラグインにもラインナップしている”Cooper Time Cube”は、2本の10フィートのホースを使用したディレイ・アウトボードです。まず基本的な原理として、空気の振動を介して伝達される音は、1フィート(約30cm)で1msのディレイが得られます。ホースの片側にスピーカーを起き、反対側にマイクを設置して音を拾えば、1msのディレイが完成します。10フィートの長さであれば、10msのディレイになります。それをスタジオ機材の中でどうやってやるのでしょうか?」

「こちらがCooper Time Cubeの入出力ユニットです。」

Cooper Time CubeのI/O部

「このユニットの中にはスピーカーをドライブするためのパワーアンプと、マイクプリアンプ/ラインアンプモジュールが搭載されています。ここに入力された音声信号は、別室に設置されたユニットに送られ、ディレイ音が戻ってきます。その中を見てみましょう。」


Cooper Time Cubeの内部

「10フィートのホースを巻いた状態で箱の中に収納し、断熱/防音材で外部からのノイズを遮蔽します。この両端にスピーカーとマイクを設置するのですが、ホースを通した音って・・・良い音ではありませんよね(笑)。父はこの音をハイファイなサウンドに補正するために、音響的・機械的にイコライジングを行いました。片側に小さなレゾネーター(共振板)等でトランデューサー/スピーカーを設置するマウントにトリックを仕掛け、もう片方に設置されたマイクから拾われてスタジオに戻ってきたそのサウンドは、ホースを通過した音とは思えないものでした。ここには2系統のホースが入っており、その経路を切り替えることでディレイタイムを変えることができます。」

UADプラグインにて再現されたCooper Time Cube MkII

「とにかく、父は人工的なリバーブとディレイを作りことに夢中になっていましたし、それをデジタル領域で今後行われていくであろうことも知っていましたし、大きな興味を持っていました。その過渡期に父は自身のキャリアを終えることになるのですが、今度は息子である私がAlan Sidesと一緒に、父よりも多くの時間をこのスタジオで過ごすことでOcean Way Roomsプロジェクトが完成したのです。」

Ocean Way Studioは、父が作ったルームで、Alan Sidesが様々なビックプロジェクトを成功させてきました。ここは、、Green DayがAmerican Idiotのレコーディングのためにドラムをセットした場所で、Eric Claptonがアンプを置いた場所であり、Ella Fitzgeraldが歌った場所です。Alan Sidesはこれら全ての経験を持っていたため、こうした状況下での反射パターンを測定してモデリングしました。こうして生まれたOcean Way Roomsのアンビエンスは、実際にそこでレコーディングされていないにも関わらず、本当にそこで演奏されたかの様にアンビエンスが聴こえます。別々の場所が一つになる・・・それは本当に楽しい経験でした。

こうして生まれたOcean Way Roomsのサウンドは・・・実際に使っている皆さんの方が私よりご存知かもしれませんね(笑)。


Ocean Way Studioプラグイン

 

次回、アナログ・ハードウェアの製造現場、そして社屋内スタジオへの潜入レポートです!

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