【新製品レビュー】8年振りの大刷新:Roland 新FANTOMシリーズを徹底チェック

「ミュージック・ワークステーション」・・・強力なシンセサイザー音源とエフェクトにシーケンサー、場合によってはレコーダー機能まで統合し、1台でトータルな音楽制作を可能にするキーボード。トータル152ものオーディオ/MIDIトラックシーケンサーを内蔵したFantom-Gは、ミュージック・ワークステーションの一つの到達点であったと言っても過言ではないでしょう。

しかし、Fantom-Gシリーズの登場から早8年。その間に機材も、音楽シーンも大きく変化してきました。音楽制作はより高度に、パワフルに進化を続けるDAWが引き続き主役である一方、ライブパフォーマンスシーンでは各種ハードウェア機材を駆使した「脱PC」の流れも勢いを増してきています。

今回、久々のモデルチェンジとなる新「Fantom」は、そんなシーンの中でどんな形で存在感を示す機材となるのでしょうか。発売に先駆けての実機レポートです!

製品ラインナップ

従来通りセミウェイテッド鍵盤の61鍵/76鍵モデルにピアノ鍵盤の88鍵モデルの3種類、モデル名はそれぞれ「FANTOM-6」「FANTOM-7」「FANTOM-8」と徹底的にシンプル。これまでの進化から一旦リセット、徹底的な刷新により生まれ変わったFANTOM・・・開発者の意気込みを感じさせるネーミングと言えます。

デザイン

まずは、そのデザイン。一目でこれまでのローランド製品とは大きく異なる印象ですね。サイドパネルからリヤパネルに掛けて伸びた、赤いストライプが実に新鮮。トップパネルはブラスト加工が施された削りだしのアルミ製、このモデルのために新しい加工機械を導入したそうです。一見つや消し塗装されたプラスチックにも見えますが、ブラスト加工による非常に細かな凹凸と硬質なアルマイト塗装が有む質感は「触れたら判る」高級感を持っています。

そんな質感も含め、今回のFANTOMには何となくヨーロピアンな香りが・・・と思っていたら、デザインはAxcel Hartmann(※)によるものだとか。納得です!

※Axcel Hartman:シンセサイザー/インダストリアルデザイナー。代表作としてWaldorf The WaveやMicrowave、blofeld、ALESIS Andromeda A6、MoogのVoyagerやLittle Phatty、Taurus、Arturiaの一連のシンセ、そしてHartmann Neuronなどが挙げられます。

鍵盤

ピアノタッチのFANTOM-8には、RD-2000にも搭載されている木材+樹脂のハイブリッド鍵盤PHA-50を、そしてFANTOM-6/7には、新開発のセミウェイテッド鍵盤が採用されています。

このセミウェイテッド鍵盤、従来よりも奥行/支点が5mm長く設計されており、付け根の部分でも十分なストロークを確保。ややこしいフォームでのトリルも弾き易くなりました。

また非常に細かい部分ですが、白鍵前端部や黒鍵の角のRが小さくなり、よりシャープな印象を与えるものとなりました。見た目の印象だけでなく、特に黒鍵の形状変更は指のすべりによるミスタッチを軽減する効果もあるのだとか。また、機構内のバッファ(クッション)の材質・構造の改良により、機構音が非常に小さく押さえられています。特に離鍵時の静粛性は大幅に向上しており、周囲にカタカタ、バタバタする音を気にせず練習できそうです。

ちなみにスペックを確認してみると、どのモデルもズシリとした重量となっています。これは演奏時の安定感を重視し、筐体底面部を筆頭に各部の剛性を大幅に向上したことによるものだとか。

No Mode Structure

新FANTOMの最大のポイントとなる仕様が、「モード」という概念を廃した新しいインターフェイスです。ローランドに限らず、シンセサイザーの多くは一つの音色を演奏する「パッチ」モード、複数の音色を組み合わせた「パフォーマンス」モード、楽曲を製作するための「シーケンス/ソング」モード等、用途に応じて各種モードを切り替えて使用する構造を持っています。しかし、例えば一つのパッチをレイヤーや楽曲製作で使用しようとすると、そのエフェクト設定が引き継がれず音色の印象が変わってしまったり、各モードによって階層構造や操作法が異なることにより混乱が生じたり・・・そうしたユーザーからのフィードバックを受け、16パート音色/パターン/ソング/外部コントロール設定等を全て「SCENE(シーン)」と呼ばれるスペースで管理しています。

FANTOMの基本画面となる「SCENE SELECT」。ここで各シーンを選ぶことで、鍵盤で演奏される音色だけでなく、その裏でスタンバイしているマルチパートの音源やパターンシーケンス、全パートのエフェクト等、全てのセッティングが瞬時に切り替わります。シーン切替は音切れも起きません(※後述のV-Piano音源を除く)。

シーンの特性により色分けされており、例えば黄色いラベルの付いたシーンはパターンシーケンスが含まれる、青いラベルはパターンを組み合わせたソングが含まれている等、その内容を視覚的に判断できる様になっています。

「ZONE VIEW」ボタンを押すと、裏で鳴っている音色とその設定が一望できます(8パート×2ページ)。ここでレイヤーやスプリットのゾーン分け等、様々な設定がさらりと行えます。モードレス構造ならではですね。

シーンの中で、鍵盤で弾きたい音色はディスプレイ左側のセレクトボタンで選択することも可能です。もちろん各音色のレベルはスライダーでいつでも調整できます。

ディスプレイ右側にも様々なコントローラーが用意されており、基本的なシンセサイザーのパラメーターをいつでもエディット可能です。より細かく弄りたい場合はそれぞれの「PARAM」ボタンを押すだけ。

16個のパッドもサンプリング音のトリガーやパートセレクト等、リアルタイムコントロールに有効なインターフェイス。音色のジャンル呼び出しボタンとしても使われる16個の横並びボタンは、勿論アレです。TRスタイルのリズムパターン・プログラムやパフォーマンスに無くてはならないアレです。

ちなみにフィルターのツマミを回すと、ディスプレイにはカットオフやレゾナンスの状態がフローティング状態のグラフィックで一目で判ります。スマホと同様の静電容量式のタッチパネルですから、指でグリグリとフィルターをスウィープさせることもできますよ。

ライブ等で演奏する場合は、「SCENE CHAIN」というボタンを押せば、任意のシーンを並べて登録、タッチパネルやボタンで直ぐに切り替えられるレジストレーション的なセットが保存できます。シーンの内容を表示できるメモ的な機能も嬉しいポイントです。

新規開発音源”ZEN-Core”

音源部分も強力。核となるのは様々な音源方式を統合した自社開発の音源チップBMC(Behavior Modeling Core)」。V-Pianoのような膨大な計算を必要とするピアノ・モデリング音源をこのチップ1基で賄うことができるのですが、FANTOMではこれを何と4基も実装しています。

搭載されているメイン音源は、長年の実績を持つVA(バーチャル・アナログ)の発展系と言える“ZEN-Core”と名付けられた新規開発音源。パラメーターは1024段階のハイレゾ仕様ですから、カットオフのスウィープも本当に滑らか。非常に速く動作するエンベロープの「パツパツ」感も、アナログシンセ並に細かくコントロールできるのは、ヴィンテージシンセ好きの方にとっても満足できる筈です。

更に注目すべき点は、このZEN-Coreの中にはPCM音源も融合していること。リアルな楽器音の再生はもちろん、一般的なサンプル・プレイバック音源に比べて非常に高いエディットの自由度を誇ります。一つのトーンは最大4つの「パーシャル」と呼ばれる要素で構成されており、VAの波形とPCM波形の並列だけでなく、シンクやクロスモジュレーションなど相互に絡む複雑な音作りも可能です。

また、それぞれのパーシャルには独立したEQと2系統のLFOが実装されているのも注目です。各パーシャルを重ねたトーンに対してEQやLFOでモディファイを加える、という考え方が一般的なシンセサイザーの音作りですが、個別のパーシャルに対して更に病的に(?)細かく追い込める訳ですね。

このLFOには「ステップLFO」も新たに追加されており、最大16のステップ&35のカーブを組み合わせて、ステップシーケンサー的なモジュレーションソースになります。

結果、FANTOMの「シーン」には、16のトーンを扱うことが出来る訳ですから、合計64のEQと128のLFOが同時使用されており、更にはマスターエフェクトとしてのEQも使えるのです。

V-Pianoも

モデリングからPCMまで、非常に自由度の高い”BMCチップ”を4基搭載することで、ローランドの最高峰ピアノ・エンジンであるV-Piano音源も使用することが可能になりました。最新ステージピアノRD-2000から移植されたこの音源、全鍵ポリフォニック、非常に自由度の高いエディット、そして何より生々しい共鳴やアンビエンスが絡み合う極上のピアノサウンドがFANTOMの1パートとして扱えるなんて、何で贅沢なのでしょうか。

膨大なリソースを消費する音源ですから、シーンのシームレスな切替等、一部機能に制約が生じていますが、ステージでピアノ音色を多用する方にとっては見逃せないポイントです。特に、PHA-50鍵盤を搭載するFANTOM-8であれば、ステージピアノとしても完璧な一台になりますね。

FANTOMに搭載されている音源は、大きく分けてこのZEN-CoreとV-Piano、そしてドラムキット音源の3種類。ドラムキットも、個々のサウンド毎にフィルターやEQ等のパラメーターが独立して装備されているため、細かいニュアンスを作りこむことが可能です。
トーンホイールオルガンのモデリング音源やSuperNATURAL音源が搭載されていないのは少々意外でしたが、ZEN-Coreの柔軟な音色エディット能力で実用上はカバーできている、という事でしょう。

アナログ・フィルター搭載

“ZEN-Core”音源の中にも非常に「いい感じ」のフィルターが搭載されていますが、それとは別にJD-Xaに搭載されているものと同等の「ステレオ・アナログ・フィルター」が独立して搭載されています。

これはシーン内の16パートの音源に対して個別にルーティングできる、インサーションエフェクト的なモジュールになります。任意のサウンドに対してアナログ回路ならではの質感をプラスできるだけでなく、勿論ツマミでグリグリと派手なパフォーマンスに活用することもOK。但し、ステレオ1系統という物理的な制約上、各トーンのフィルターの代わりとして組み込んで、「エンベロープでミョンミョンさせる」様な使い方はできない様です。外部CCを活用する等、裏技的に何かできそうな気もしますが(確証なし)、そこはオーナーの方で試行錯誤してみてください。

アナログフィルター使用時は、カットオフ&レゾナンスノブが赤く光ります(通常は青)。

シーケンサー

新FANTOMのシーケンサーも大きく変化しました。従来のタイムラインベースの楽曲製作用のシーケンサーではなく、新たにクリップベースのパターン・シーケンサーが採用されています。各トラックにはループされたフレーズ(クリップ)が複数並んで保存されており、再生するパターンの組み合わせで・・・はい、Ableton Live的なアレですね。

「モード」という概念が無くなったことで、こうしたパターンシーケンスもそれぞれの「シーン」に統合されています。各トラックの個別のクリップはTR方式のグリッド入力、ピアノロール、そしてリアルタイムと様々な方法でプログラムでき、断片的なフレーズの組み合わせでアイディアを練っていきます。そのままライブパフォーマンスとして活用しても良し、組み合わせを保存&並べてソングを作っても良し。更に楽曲を作りこむのであれば、オーディオまたはMIDIでDAWに書き出してあとはそちらで。作りこみの自由度やディスプレイの情報量等、どうしてもDAWには太刀打ちできない部分がありますから、こうした分業前提の割り切った変更は大正解だと思います。

シンセサイザーシステムの中核として

外部DAWとの連携も進化しました。USBケーブル1本でMIDIデータは勿論オーディオトラックの入出力も行えますから、「DAW内のソフト音源をFANTOMに入力してアナログフィルターを通してDAWに戻す」といった使い方も可能です。

更に、AppleのLogic ProやMainstage、Garagebandとはより進んだインテグレーションを実現。ソフトウェア上の音色名やパラメーターがFANTOMのディスプレイ上にも表示され、タッチスクリーンからも直接操作することが可能になっています。これ、特にMainstageでライブを行うのなら凄く便利じゃないでしょうか。PCのディスプレイで音色を確認する必要もなく、PAへの出力もFANTOMから全てまとめて行えますしね。

オーディオ入出力もXLRバランス対応、3本ペダルユニットの接続も可能と、プロフェッショナルなステージ/レコーディング用途を想定した仕様です。CV/GATE出力も2系統用意されており、ユーロラック等のアナログシンセを本体のパターンシーケンサーでコントロールしたり、外部入力を組み合わせてエフェクトを掛けたりすることも出来ますし、「EXTERNAL DEVICE」と表示された3系統のUSB端子を使えば、USB接続のMIDIコントローラーやキーボードを直接接続して、ツマミの数を増やしたり、ダブルマニュアル(2段鍵盤)のセットアップが出来たりと可能性が広がります。

つまり、単体でも十分に完結するキーボードとしてだけでなく、シンセサイザーシステムのハブとなるポテンシャルを備えているのが、この新しいFANTOMなのです。これこそ、現代のワークステーションとは何か、という問いに対するローランドの回答です。


2019年9月6日発売開始

最新FANTOM、実は直ぐにご用意可能です。何と発売日は明日、9月6日(金)となります。

価格は上記リンク先よりご確認ください。

初回入荷台数には限りがございます。是非いち早く、発表直後の最新鋭シンセサイザーを体感してください!

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