[連載]SD-9007サイドストーリー #3 SDMカスタムケーブル

サイデラ・マスタリング&レコーディング(以下SDM)で使用する為に産み出されたケーブル『SD-9007』。
SDMのシンボリック・カラー “赤” を身に纏ったカスタム・ケーブル、そのプレ・ストーリー。
>>>SD-9007サイドストーリー #1 オノ セイゲン&SDM,そのツール
>>>SD-9007サイドストーリー #2 オノ セイゲン&DSD,SACD
『SD-9001』、『SD-9003』、『SD-9007』・・・。
SDM内では多くの“赤い”カスタム・ケーブルが数々の機器群を繋ぐ。


少し時代を遡る。
2000年台初頭、オノ セイゲン氏が関わったプロジェクト。
JAZZの名門レーベル、Verve Records / ヴァーヴ・レコード。そのVerve Records誕生60周年記念として企画された『Verve 60th Anniversary Reissue – Supreme Sound Edition』。

『Getz / Gilberto : Stan Getz / Joao Gilberto』
『We Get Requests : Oscar Peterson』
『At The Montreux Jazz Festival : Bill Evans』
『Nows The Time : Charlie Parker』
『Mack The Knife – Ella In Berlin : Ella Fitzgerald』
『Plays : Stan Getz』
『California Dreaming : Wes Montgomery』
『Composer Of Desafinado Plays : Antonio Carlos Jobim』
『Ella & Louis : Ella Fitzgerald / Louis Armstrong』
『Pres And Teddy : Lester Young / Teddy Wilson』
セレクトされたVerveの名作、10タイトル。
オノ氏はその10タイトルの「オリジナル・マスターテープからのDSD化」を実行する為に渡米、NYCのユニバーサル・スタジオで進められたその任務。
その折、オノ氏が日本より携えた“ある機材”。
“赤い”極太ケーブル『SD-9001』・・・SDMの為にカスタム・メイドされたトランスファー・ケーブル。

「2004年、[ Verve 60th Anniversary-ヴァーヴ誕生60周年記念企画 ](SACD)のために、ニューヨークのユニバーサルミュージックにソニーのSONOMA(SACD専用のDSD編集機)を用意してもらい、日本からは僕の道具としてカスタム・メイドされた『SD-9001』トランスファー・ケーブルだけを持ち込み、そこに米国外には持ち出し禁止のオリジナルのアナログ・マスターテープを揃えてもらった。
レコーダーの再生にはHiとLowしか調整はなく、メーターの針一本で0.2dBくらい変わってしまうのだが、素早く調整して(同じリールにLPのA面、B面と曲順ごとにスプライシング・テープでつないであるが、例えば録音がニューヨークとロスで分かれていたりするとそれぞれ微妙にアジマス調整が必要)、僕と斉藤嘉久さん(本アルバムのA&Rでもある)は10日ほどかけて丁寧にアーカイブした。」(オノ セイゲン氏:当時のオーディオ誌、ジャズ誌、SDM Facebook より)
ユニバーサル・スタジオのアナログ・テープ・マシンからSONOMAレコーダーにダイレクトに繋がれたSDMカスタム・ケーブル『SD-9001』。その“赤い”ケーブルは、その後、NYC / Sterling Studioのグレッグ・カルビ氏の元にも導入されることとなる。
オノ氏によりNYCで記録されたVerve 名作10タイトルは、その後、オノ氏のマスタリングによりSACD『Verve 60th Anniversary Reissue – Supreme Sound Edition』として同2004年、国内リリースされた。
そして2023年。
2004年にNYCでDSDアーカイブされたVerveオリジナル・マスターテープの素材、そしてBrazil PhillipsのDSD素材からオノ氏が楽曲をセレクト、マスタリングまで行なった『Jazz, Bossa and Reflections Vol. 1 / Compiled and Mastered, by Seigen Ono』Hybrid SACDがリリースされる。
“・・・この作品のLP、CDをいくつか所有しているが、本作『Jazz, Bossa and Reflections Vol. 1』に収められたこのトラックがいちばん音が良いと思う。”(『STEREO』2024年9月号 文・山本浩司 )
収録曲:オスカー・ピーターソン・トリオ「You Look Good To Me」について語った山本氏の言葉に垣間見る、オノ氏の施した“新たなマジック”。
「できることならこの音で2004年のDSDアーカイブ10枚全部をSACDにしてほしいですよね。」(オノ氏)
2004年当時、A820搭載の2バンドEQのみで調整されたVerve マスターテープからのDSD音源・・・選ばれた13曲に加えられた“更なるトリートメント”は、DAW上ではなく、すべてアナログドメインでEQ、ダイナミクス処理され、コンパイル、マスタリングされた。
「2004年は、ユニバーサルNYCのSTUDER A-820 →ニューヨークまで持ち込んだSD-9001ケーブル→EMM ADC8→SONOMA で、テレコのEQ TRBとBAS(※下記画像)だけでDSDアーカイブした音をSACDにしています。」(オノ氏)

「今回(『Jazz, Bossa and Reflections Vol. 1』)は、2004年のDSDアーカイブをSONOMA→EMM DAC8→ SD-9007ケーブルを使用してアナログドメインの、より積極的なEQによりマスタリングしています。」(オノ氏)
2023年『Jazz, Bossa and Reflections Vol. 1』、その制作過程・・・
[DSD] EMM DAC8→アナログプロセス→EMM ADC8 [DSD]

“より積極的なアナログプロセス”。
その機器間に接続された“新たな”SDMカスタム・ケーブル:『SD-9007』トランスファー・ケーブル

通底するオノ氏が目指すもの、その実現のためにこだわってきた重要アイテムのひとつ、機器と機器を繋ぐトランスファー・ケーブル。
偉業、NYCでのVerveレーベル作品のDSD化に使用された“オリジン”『SD-9001』。
そして、『Jazz, Bossa and Reflections Vol. 1』の制作より新たに導入された『SD-9007』。
両者の間には約20年の歳月が横たわっていた。
(SD9007サイドストーリー #4につづく)
>>>SD-9007サイドストーリー #1 オノ セイゲン&SDM,そのツール
>>>SD-9007サイドストーリー #2 オノ セイゲン&DSD,SACD
オノ セイゲン Seigen Ono:
レコーディング / ミキシング / マスタリング・エンジニア, アーティスト

録音エンジニアとして、82年録音の清水靖晃「案山子」「うたかたの日々」、坂本龍一「戦場のメリークリスマス」、渡辺貞夫「パーカーズ・ムード」(85年)「ELIS」(88年)、加藤和彦、三宅純、ヒカシュー、青葉市子、東北ユースオーケストラ、ジョン・ゾーン、マーク・リボウ、 アート・リンゼイ、ビル・フリゼール、ラウンジ・リザーズ、オスカー・ピーターソン 、キース・ジャレット、マイルス・デイビス、キング・クリムゾン、ジョー・ジャクソン、デヴィッド・シルヴィアン、スティーブ・ジャンセン、など多数のアーティストのプロジェクトに参加。2012年からは映画Blu-ray化の音声トラックのマスタリングも手がける。
また、アーティストとして1984年にJVCよりデビュー(今年40周年)、87年に日本人として始めてヴァージンUK(アーティストとして3枚)、ヴァージン・ミュージックパブリシング(作家として10年)と契約。同年、コム デ ギャルソン 川久保玲から「誰も、まだ聴いたことがない音楽を使いたい」「洋服がきれいに見えるような音楽を」という依頼によりショーのためにオリジナル楽曲を作曲、制作。アート・リンゼイ、ビル・フリゼール、ジョン・ゾーン、マーク・リボウ、フレッド・フリスら、80年代のNYダウンタウン・シーン最精鋭たちが結集した『COMME des GARCONS SEIGEN ONO』は、2019年度 ADCグランプリ受賞。 1993年以来スイス、モントルー・ジャズ・フェスティヴァルに4回、アーティストとして出演している。
SDM / サイデラ・マスタリング Saidera Mastering & Recording:
オノ セイゲン氏により1996年に設立。早期よりDSD/SACDをはじめとするハイ・レゾリューション・フォーマットを手がけ、ハイレゾ・シーンの品質向上、普及に大きな貢献を果たす。近年では映画Blu-ray化のためのマルチトラック・マスタリングをはじめとする映像分野の音声も手がけ、その品質向上に寄与。
>>>SD-9007サイドストーリー #1 オノ セイゲン&SDM,そのツール
>>>SD-9007サイドストーリー #2 オノ セイゲン&DSD,SACD