【イタリア・DEXIBELL現地レポート】Part1:ステージピアノの本命現る!?

 

2019年秋、日本国内での発売が予定されている、イタリアの新進気鋭の電子楽器ブランド

「DEXIBELL(デキシーベル)」

・・・耳の早い方ならば、既にその名前をご存知かもしれません。

ステージピアノ、電子ピアノ、そしてオルガン等の電子鍵盤楽器”VIVO”シリーズを展開する同社。

世界中のプレイヤーに絶賛されるその魅力を探るべく、イタリアに飛んだ鍵盤堂特派員による現地レポート&開発者インタビューをお届けします。これを読めば、その上陸が待ちきれなくなるハズです!


イタリア発・電子楽器ブランドの系譜

イタリア半島のちょうど膝の裏辺り?イタリア中東部のアドリア海沿岸地方は鍵盤ブランド・FATAR/Studiologicをはじめ、多くの楽器・音響機器メーカーが存在する地域です。FARFISAもイタリア発のオルガンブランドですし、一部のVOXオルガンもイタリアで製造されていましたね。1980年代に活躍したブランド「SIEL(ジール)」もそうした中の一つで、DCOアナログシンセ”Opera””DKシリーズ””Expander”等のヒット作が多く存在します。同社開発のポリシンセが名門”ARP”ブランドで流通していた事も、ベテランのキーボーディストであればご存知ではないでしょうか。

残念ながらSIELは1980年代後半に終焉を迎えたのですが、その施設と人材はローランド・ヨーロッパに引き継がれることになりました。ローランド・ヨーロッパは欧米向けの電子ピアノやアレンジャー・キーボードの生産のほか、モデリング技術を組み込んだ孤高の電子アコーディオン「V-Accordion」の開発・生産を手がけた功績で有名です。

SIEL時代のシンセサイザー、そしてV-Accordionの開発責任者として活躍した人物、Luigi Bruti(ルイージ・ブルーティ)氏こそ、今回のキーパーソン。

Luigi Bruti氏

1977年のアコーディオン世界チャンピオンという肩書きを持ち、プレイヤーとしても超一流のルイージ氏。ローランド・ヨーロッパの閉鎖後、Vアコーディオン製造に関わるスタッフは生産ラインと共にFATAR社へ、残った開発スタッフの多くとローランド・ヨーロッパの施設は近郊の総合楽器・音響ブランド「PROEL(プロエル)」に引き継がれました。

一方、ルイージ氏はペダーゾ(Pedaso)の自宅近くで自身のレコーディングスタジオ運営を行う傍ら、1年以上の時間を掛けて新しい電子楽器の研究・設計に没頭していました。ローランド・ヨーロッパの閉鎖から約2年を経て、その音源技術と共にPROEL社のかつての同僚と合流、同社内の新しいハイエンド・電子楽器部門として「DEXIBELL/デキシーベル」を設立したのです。

RolandからDEXIBELL。それぞれは全く異なる会社で、そのテクノロジーやパテント等は一切引き継がれていないため、全てがゼロからのスタートでした。しかし、SIELやRolandで育まれた人材の持つ蓄積された経験、そして何より楽器への情熱は一つの系譜としてDEXIBELLに受け継がれています。


PROEL/DEXIBELL

アンコーナより車で1時間強、サントメーロ(Sant’Omero)に位置するPROEL本社。世界中に支社・工場を持つ、25年以上の歴史と19のカテゴリーで様々なブランドを展開する企業です。

前述の通り、DEXIBELLはこの中の電子楽器ブランドとして立ち上げられました。ここには総務・経理等の本社機能とマーケティング部門、そしてショールームが設けられています。

隣の敷地内には巨大な物流拠点が位置しており、本社建屋にはかつての物流/倉庫スペースであった広大な空間が存在します。その一部には、大きなイベントスペースが設置されていました。ここでDEXIBELL VIVOシリーズについて、デモ演奏を交えてお話を伺います。

PROEL本社内のイベントスペース

DEXIBELL VIVO Series

VIVOシリーズにはステージピアノの”S”、ホームピアノの”H”、ポータブルキーボードの”P”、クラシックオルガンの”L”、そしてコンボオルガンの”J”等、そのスタイルによって様々なシリーズが存在しますが、基本的な音源については全て同等のものが搭載されています。まずは、Sシリーズ・ステージピアノが日本で先行販売される予定だそうです。


超ハイスペック音源 “True To Life”

まず、VIVOの音源は「現在の市場に存在する製品の中で、最もパワフル」であるそうです。

その音源の名は“T2L(True to Life) Modeling”
概要をざっくり列挙すると・・・

・サンプリングとモデリングのハイブリッド構造
・24bitリニア/48kHz
・無制限の同時発音数
・最大15秒の長時間サンプリング
・音切れの無い音色/エフェクトの切替
・演奏時のアーティキュレーションを再現
・3ms以下のレイテンシー
・1.5GBのサンプルメモリー
・USB経由でのデジタルオーディオ入出力

なるほど超ハイスペック!

 

圧巻のダイナミックレンジ

Dexibellは現在市場に流通している電子楽器の中で唯一24bitリニアの音源を持っています。これは他社の16bit音源と比較して256倍のダイナミックレンジを持つことを意味しており、pp(ピアニッシモ)からff(フォルテッシモ)まで、圧倒的な表現力を実現しています。看板サウンド「Vivo Grand」で、その豊かなダイナミックレンジをご確認ください。

 

サンプリング&モデリング

サンプル・プレイバック方式(PCM)音源は、当然ながらその収録されたPCM波形のクオリティが重要です。日本の電子楽器メーカー各社のサンプリング時間は1秒から5秒程との事。重要な音のアタック部分を過ぎたら直ぐにループ再生される訳ですが、VIVOシリーズのT2L音源は最大で約15秒もの長時間サンプリング波形を収録しています。ピアノ等の複雑な音色の、減衰する過程での倍音の変化を正確に捉え、和音を弾いたときの不自然なうねりを解消しています。

更に、PCM波形を様々な要素に分解。複数の音が鳴った状態での相互干渉やハンマーの機構音、ダンパーペダルを踏んだ際の弦の共振やペダルノイズ等を緻密にサンプリング&モデリングにより再現しています。

例えば左手で和音を弾いた状態で右手でスタッカートを演奏すると、左手で弾いている鍵盤の弦の音が共鳴して鳴るのが聴こえます。またダンパーペダルを踏んだ状態とそうでない状態、更にはハーフダンパー状態とで異なる響きになります。PCM波形の再生が「静的」なリアルさであるのとは違い、微妙なアーティキュレーションにも反応する「動的」にリアルな弾き心地を実現した音源と言えるでしょう。

多くのブランドがリバーブ等のエフェクト処理で共鳴音を再現しているのに対し、DEXIBELLでは88鍵それぞれの弦の共鳴音のサンプル素材を使用し、その時々に起こるべき自然な共鳴音をモデリング技術により再現しているのも特筆すべき点です:

 

ピアノだけじゃない・・・!

こうしたサンプリング音源にモデリング要素を組み込んだ音源は近年のトレンドであり、既に同様の音源をリリースしているブランドも存在します。しかし多くの製品は目玉の「アコースティックピアノ」1音色に全てのリソースを注ぎ、それ以外の音源は従来機種のPCM音源だったりします。しかしVIVOのT2L音源は、ピアノ以外の音色についても同等のサンプリング&モデリングのハイブリッド構造を採用しており、例えばエレピやクラビネット等の音色でも同様の表現力を実現しています:

 

ステージピアノ最上位モデルであるS9やコンボモデルJ7に収録されるトーンホイールオルガンサウンド。トーンホイールから生まれる無数のサイン波や付随するノイズ、キークリックやロータリースピーカーのモーターノイズ等に至るまで、ピアノ音源に匹敵する情熱を込めてモデリングされています。また、クラシックモデルCLASSICO L3やS9にはパイプ一本一本の挙動をモデリングしたパイプオルガンサウンドが収録されています:

 

音色の性質に合わせてサンプリングとモデリングを柔軟に組み合わせることで、ピアノやオルガン以外の音色についても非常に高いクオリティを実現しています。例えば管楽器のサウンドも、ロングトーン時のビブラートをループ+LFOで再現するのではなく、実際の演奏者が生み出す「生」のビブラートをそのまま収録しています。長時間サンプル音源だからこその表現力ですね。ベロシティやモジュレーションホイール、フットコントローラーで有機的に変化するサウンドにも注目です:

こうした様々な音色は「SF2」というフォーマットでWEBサイトにて配布されており、好みや用途の合わせてのカスタマイズも容易。更には上位機種向けに波形メモリーを超贅沢に使用した「PLATINUM」シリーズの音色も配布されており、ただでさえ強力な音源を更にグレードアップすることが可能です。

Quad Core CPU

では、そんな強力な音源をどうやって鳴らすのか?・・・ある会社は、専用の音源チップを自社生産することで対応していますが、途中での仕様変更やアップデート等が困難であり、開発・製造にも膨大なコストが掛かります。そこでDEXIBELLでは、タブレットやスマートフォン等に採用されている、クアッド(4)コアのCPUを採用しています。

VIVOシリーズの心臓部、クアッドコアCPU

パワフルなマルチコアCPUは高価ではありますが、モバイル端末の普及により、その性能に対して非常にコストパフォーマンスが良く、また将来的に処理速度を倍増させた次世代音源への対応も容易であることが大きなメリットであるとの事。UNIXベースのOSで動かしており、それぞれのコアに対してダイレクトにアクセスして並列処理を行うカーネルを作成しているそうです。これにより、音源のタイプや演奏状況によって発生する様々で膨大な処理を適切に分散・並列処理させることで、先述の超ハイスペックを実現できている訳ですね。

つまり、T2L音源の核心部はソフトウェアであり、この技術を応用すればプラグインとして使用できるソフトウェア音源として製品化することも理論上は可能だそう。しかし、鍵盤タッチと音源の密接な一体化、マルチコアCPUを最適化して稼動させる安定性等、高い完成度を求めるのであれば、完結したハードウェア・パッケージに行き着くのは当然の帰結でしょう。

FATAR製キーベッド

鍵盤ユニットは、もちろん地元のFATAR製安定・信頼の品質で、T2L音源の表現力を余すところ無く引き出します。

最上位モデル”S9″には、木製鍵盤「TP400/WOOD」が採用されています。その心地よい弾き応え、鍵盤の感触、爪が触れる音すらも音楽的なイタリアン・キーベッドです。

マスターKEYとして

もちろん、Sシリーズは内蔵音源だけでなく、マスターキーボードとしても扱い易く設計されています。4ゾーンのMIDIコントローラーとして使用できるだけでなく、パネル上には多数のリアルタイムコントロールを装備。最上位モデル”S9″には、9本のムービングフェーダーを搭載。DAWコントローラーとしてはもちろん、オルガンのドローバーとしても使用することが可能です。

 


MADE IN ITALY

VIVOのもう一つのこだわりは「イタリア発」「イタリア製」のプロダクトであること。

DEXIBELLのある地域は従来より革製品の製造が盛んで、フェラガモ等超一流ブランドの靴を作る工房等が多く存在しています。また、イタリアが世界に誇る「フェラーリ」のスポーツカー、オーガニックなイタリア料理。その全てに共通するのは、「良いもの」の「シンプル」な組み合わせにより作り出されていること。イタリア人は、こうした職人気質から生まれた工芸品やデザイン、豊かなライフスタイルに並々ならぬプライドを持っています。

VIVOシリーズも、こうした美意識の下で企画・設計された製品であり、フェラーリに在籍していたデザイナーが外観デザインを担当しているそうです。

例えばこのホームピアノ”H7″のデザイン。滑らかでエッジの効いた曲線、情熱のROSSO(赤)カラーなど、アスファルトタイヤを切りつけそうな、いかにも速そうな印象を受けませんか?これぞイタリアン・デザインとも言うべきプロダクトですね。

 

 

こちらは現在開発中のホームピアノ最上位モデル。こちらも見れば見るほど、凝った面構成を持っています。

ステージピアノ”VIVO S9″のサイドパネルは、ホワイトパネルとの対比が美しいブルーグレイに塗装された木製。一つ一つの木材の持つ質感を活かすため、あえて目止め処理を施さず、木目や木の触感が感じられる仕上げとなっています。

コンボオルガン”J7″のサイドパネル。こちらも綺麗なラインと面構成を持ちながら、伝統的で暖かな印象を受ける仕上げです。


ラインナップ

木製鍵盤・ムービングフェーダーを搭載したステージピアノ最上位モデル”S9″

上:シンプル&軽量コンパクトな”S1″
下:ハンマーアクション鍵盤搭載の中核モデル”S7″

上:スピーカー搭載のホームユースモデル”P1″
下:ウォーターフォール鍵盤&ドローバー搭載のコンボオルガン”J7″

家庭用電子ピアノ”H”シリーズ

クラシックオルガン”CLASSICO L3″

※Sシリーズ・ステージピアノ以外の製品は現時点では導入時期等未定です。

ルイージさん、デモ演奏担当のロベルトさんと共に。

とにかく音が良い!表現力が素晴らしい、そして魅力的なイタリアンデザイン。DEXIBELL VIVOシリーズは、2019年秋頃日本国内での発売開始を予定、鍵盤堂でもその魅力を体感頂けるイベントの開催を計画中です。

イタリアからやってくる、ステージピアノの大本命、ご期待ください!

 


次回、DEXIBELLの製品開発及び製造現場を訪問します。

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