【新製品】SEQUENTIAL Trigon-6レビュー

昨年末、SEQUENTIALから発売されたポリシンセ「Trigon-6」。惜しくも昨年逝去された、稀代のシンセ・デザイナーであるデイヴ・スミス氏が最後に開発に携わった製品になります。「Prophet-6」と「OB-6」。ざっくり言ってしまえば、ポリシンセの象徴的ブランドを網羅するこれら2製品に欠けている最後の1ピースを補完する製品と言えるでしょう。

Prophet-6・・・SEQUENTIALブランドを象徴するシンセ「Prophet-5」のサウンドを受け継ぎつつ、現代的な解釈を加えて再構築した名作シンセ。

OB-6・・・アナログ・ポリシンセを代表するブランドとしてProphetと双璧をなす存在。トム・オーバーハイムとデイヴ・スミス・・・かつての競合相手は、同時代を生き抜いた掛け替えのない友。SEQUENTIALブランドの協力によるダブルネームでの復活は、世界中のシンセ好きが感涙に咽びました。

いやぁ、もう、このシンセの二大巨頭を再び世に送り出してくれただけでも最高なのですが。

ここまで来ると、やはりアレをカバーしたくなりますよね。ProphetでもOberheimでもない、アナログシンセのキング的存在といえば。本家ブランドも元気に存在するのであえて名前は出しませんが、アレですアレ。

 

はい、オシレーター3つのサウンドを、トランジスタ・ラダー型フィルターにブリッと突っ込んだ粘り気のあるファットなアイツ。Moo、Gぁマンできないw

そんなシンセです。しかもポリ。

 

外観

昨今のSEQUENTIALブランドのシンセの流儀に倣った精悍な黒いパネルに、ナチュラルカラーのウッドパネルが映えます。あえての液晶ディスプレイ無しの7セグ赤LEDディスプレイ、カチカチした感触が気持ちよいタクトスイッチ。ヴィンテージな操作感と、新しい製品ならではの各所タッチがもたらす安心感・・・お手本のようなデザイン、最高です。

オシレーター

シンセ好きな方であれば、この3つ重なったオシレーターセクションのデザインが意味するものはもうお判りですね。
波形切替がロータリースイッチではなく個別のON・OFFになっており、波形のミックスやオシレーター自体のミュートもコントロールできるのは便利。パルスワイズも専用ノブで可変するし、各オシレーターの出力レベルも個別に調整可能。更に、過大入力によるドライブ(歪み)ノブは、フィードバックコントロールも兼ねています。これは本体の出力を外部入力にフィードバックさせることで、音を暴れさせる某シンセで有名な裏技です。オシレーター1と2はシンクも可能。

オシレーター2と3は、ピッチのオフセットももちろん可能。5度や7度でハモらせて、モノフォニックで疑似的なコード演奏を行ったり、デチューンで滲み感を出してみたり・・・したいのですが、センタークリックが付いており、その周辺はデッドポイントが設けられています。シンセのデチューンって、この僅かな範囲のコントロールがキモなんですが、このデッドポイントのせいで個人的にはちょっと仲良くなれませんでした(メモリー書き込み/呼び出し時に完全な再現が難しいので、後述の”VINTAGE”ノブに任せてしまおう、という事かもしれません)。ピッチの可変カーブはリニアではなく、12時付近は緩やかに、それ以上左右に回すと急激に変化します。

一方で、複数のオシレーターが綺麗に分離してハモる様な感じではなく、良い意味で汚く滲んで混ざっているキャラクターは、昨今の優等生シンセでは再現が難しいキャラクターを持っているといえるでしょう。この感じ、確かにMo…じゃなかった、アレに近い印象です。

オシレーター3は勿論キーボードから切り離してモジュレーションソースとして使える仕様です。Trigon-6ではちゃんと独立したLFOがあるので、通常はあまり必要のない機能ですが、「高速モジュレーションで倍音を生む様なサウンドに、通常のビブラートを掛ける」等の用途では、この2つめのLFOは非常に有効です。

フィルター

回路図や基板上に、梯子の様にレイアウトされたトランジスタの様子から「トランジスター・ラダー」型と呼ばれるフィルターもまた、サウンドを特徴付ける重要な要素です。Trigon-6に装備されているフィルターはPRO-3に搭載されていたものの発展形。基本は24dB/Octのカットオフカーブを持つ4ポールフィルターですが、一応2ポールへの切り替えも可能です。2ポールでは、カットオフ周波数より上の減衰がやや滑らかになることで、高域やレゾナンスのニュアンスに変化が生じます。キーボードトラッキングもハーフ/フル/OFFが選択可能。フィルターの発振音で音階を演奏する場合は「Full」を選択します。

サウンドはもう、期待通り。レゾナンス0の状態でのトゥーマッチな低音の出方、レゾナンスを上げて自己発振する際の挙動。オシレーターの出力を上げていくと、ここでもいい感じに歪みが生じます。

フィルターセクションに組み込まれるエンベロープは、一般的なADSRタイプ。反応スピードは標準的で、危険なバツバツしたインパルスを放つ程ではありませんが、コントローラブルで扱いやすい印象です。

VCAエンベロープ

こちらも一般的なADSRタイプ。ディケイタイムをリリースに適用するスイッチ付きADSエンベロープもロマンですが、そこは使いやすさ優先です。

モジュレーション

流石はProphetシリーズのSEQUENTIAL。モジュレーション関連も充実しています。LFOも、Prophet譲りのポリモジュレーションも「どのソースで何をモジュレートするか」が非常に明解で、捻りの効いた音作りが本当に捗るデザインです。

更にアフタータッチも充実しており、両手でのポリ演奏時の表現力は流石です。鍵盤を押し込んだときの感触やサウンドへの反応も非常にリニアです。

クロック&エフェクト

パネル右側のセクションは、現代のシンセならではの機能が盛り沢山。

特に「クロック」セクションは内蔵/外部クロックやタップテンポによりBPMを設定、任意の分割数のクロックを生成し、LFOやエフェクトを同期させることができます。エフェクトも同社の6シリーズ譲りの品質で、操作性・効果共にアナログサウンドの旨味を殺さず、美味しい「もう一味」を足してくれます。

一般的なアルペジエイターに加えて、「シーケンサー」の搭載も実にSEQUENTIALらしいところ。64ステップまでの任意のフレーズをプログラム&ループ再生させることで、ちょっとしたフレーズのメモだけでなく、音作りの際にも非常に有効です。ちなみにプリセットで入っているマイナーコードのシーケンスが何ともいえず味わい深いです。Trigon-6の外観も相まって、往年のProphet-600をちょっと思い出してしまいました。

「VINTAGE」ノブも、一聴して判りやすい効果ではありませんが、他のSEQUENTIAL製品同様、ボイス間の微妙なチューニングの揺れをコントロール。楽器として破綻しない範囲で、心地よい絶妙な揺らぎを生み出します。

ポリ

・・・そんなTrigon-6。その構成やサウンド等、明らかにアレを意識した仕様のため、ついついモノシンセとして見てしまいがちですが、その名の通り「6音ポリ」です。勿論アナログシンセですから、6ボイス分の回路が基板上にはレイアウトされており、トータル18基のVCOがブリブリ発振している訳です。

特にM系モノシンセは単音の持つエネルギーが凄まじく、ポリで演奏すると飽和気味のサウンドとなってしまい、逆に音が弱くなってしまう事があります。Trigon-6もサウンドによってはそうした傾向があるので、”トゥーマッチ”と感じた場合はオシレーターの出力を絞ったり、フィルターのレゾナンスを上げて低域を痩せさせたりと、細かな調整が必要でしょう。また、パネル上にもプログラムボリュームノブが用意されており、音色単位で音量を記録しておくことも出来るので、その点は扱いやすいです。

また同様に、ユニゾンモードで6ボイス(18オシレーター)を重ねることも、必ずしも良い結果には結びつきません。Trigon-6はユニゾンさせるボイス数を設定できるので、サウンドによって適宜最適なサウンドに調整できます。また、インターバルを設定して指一本でのコード演奏にも対応します。

勿論1ボイスだけに設定すれば、クラシックなモノシンセとして動作します。ソリッドな音の輪郭で、ストレートに抜ける高域、ズシンと響く低域を狙うなら、1ボイスユニゾンの設定が超お薦め。かなりのクオリティで、あの「シンセベース・キング」のキャラクターを引き出すことができますよ。

”トゥーマッチ”を飼い馴らせ

現状、M・・・ってもう伏せる必要ないですよね(笑)・・・系の「ポリシンセ」といえば、本家の「ONE」位なものでして、こちらと比較する限りTrigon-6はコストパフォーマンスは悪くありません。

確かに、Prophet-6やOB-6の様に、公式なオリジナルのブランドを名乗れないもどかしさはあります。しかし、あの押しの強いM系サウンドをモノでもポリでも演奏できる贅沢さと、SEQUENTIALならではのポリモジュレーションを組み合わせた音作りができる多様性、クロック同期やエフェクト装備等のツールとしての実用性。

パネルレイアウトはアナログシンセの教科書に載せても良いほど直感的で判りやすく、9kgという重量も相まってライブステージでもガンガン使えそうな取り回しの良さも魅力です(ベーシストとは喧嘩にならない様、入念なリハをお薦めします・・・!)。

M社のブランドにこだわらず(それでもSEQUENTIALという超ビッグネームのシンセですが)、じゃじゃ馬的キャラクター(サウンド面以外は素直な良い子です)を飼いならす楽しさをシンセに求めている方であれば、Trigon-6はきっと有力な候補になるのではないでしょうか。

最後に。Prophet-6とOB-6という優等生兄弟が居たからこそ、三男は自由奔放に作ることができたのでしょうか。デイヴ・スミス氏なりの、M社シンセに対するトリビュート。最後にこんなエッジの効いた製品を残してくれたことに、世界中のシンセマニアに代わってお礼を言いたい所存です。本当にありがとうございました・・・!

 

渋谷・鍵盤堂にて絶賛展示中!是非、ご堪能ください~

SEQUENTIAL Trigon-6

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