【新製品レビュー】Roland FANTOM-0シリーズ
Rolandより、久々の大型タイトルのハードウェア・シンセサイザーが登場します。
その名もズバリ・・・
FANTOM-0(ファントム・ゼロ)
一言で言ってしまえば、「FANTOM」のサウンドと機能を継承した、「FA」シリーズの後継モデル・・・
「なんだ廉価版か」・・・シンセサイザー・ガチ勢の皆様、ここで離脱しないでください(笑)。
結論から先に言っちゃいますが、普通にFANTOMです。しかも重量は半分以下、そしてお値段も・・・!
今回、発売に先駆けて実機を徹底チェックする機会を頂きましたので、最後まで是非お付き合いいただければと思います。
その前に、FANTOMシリーズのおさらい。
はじめに~ローランドのミュージック・ワークステーション~
「ミュージック・ワークステーション」と称される、マルチディンバー音源とシーケンサーを統合した、楽曲製作機能を持つシンセサイザー・キーボードは、1980年代後半以降、電子楽器の花形モデルとして君臨してきました。
しかし2000年代以降、DAW環境の進化と普及により、楽曲製作のメインストリームはハードウェアからソフトウェアに。ハードウェア・シンセサイザーも、アナログ・モデリングやステージキーボード等、専門家・目的特化型の勢力が拡大しています。
Rolandのミュージック・ワークステーション「Fantom」シリーズは、2001年の初代、サンプリング機能を搭載した2003年の「Fantom-S」、カラー液晶&オーディオトラック搭載の2004年「Fantom-X」、2008年の正常進化モデル「Fantom-G」で同シリーズは一旦完成形となり、2012年に一旦「Fantom」の名前はカタログから姿を消します。「DAWに呑まれるワークステーション」を象徴するような出来事でした。
しかしその後、2019年に原点回帰な名称で華麗な復活を遂げた新「FANTOM」シリーズは、強力なZEN-Core音源と演奏~楽曲製作までシームレスな「No-Mode」構造、クリップ・ベースのパターンシーケンサー、そして洗練されたDAWとのインテグレーションまで実現。スピード感と操作性を重視する「ハードウェア派」、緻密な楽曲製作と拡張性を重視する「ソフトウェア派」双方の要求を高い次元で満たし、現代のミュージック・ワークステーションの在り方を定義付けた傑作機として君臨しています。
アクセル・ハートマンによるヨーロピアンなデザインもフラッグシップ・モデルに相応しい存在感ですね。詳しくは以下のレビューを御覧ください。
軽量ワークステーション
一方で、「ワークステーションは凄いけど、でかくて重い」という声があるのも事実。そうした声に応える形で、各社共に軽量モデルも並行してラインナップしています。勿論、軽量化と機能とは多くの場合トレードオフの関係ですから、機能・価格抑えめの「廉価版モデル」という位置づけが一般的です。
ローランドの現行モデルでは「FA」シリーズがこちらに該当し、今回の新製品もその流れ、な筈ですが、FAじゃなくてFANTOMなんですよね、名前。なんとなく、下克上の予感がする訳ですよ。
FANTOM-0
後ろ姿がカッコいいシンセは、大抵デキる子。
では、レビュー本編、スタート。主に違いについて取り上げていますので、触れられていない部分は実質FANTOMと思って頂いて(多分)大丈夫です。
FANTOMとの違い
やはり気になるのが、上位モデルFANTOMとの差。情報整理の意味も含め、機能比較一覧表を作成してみました。イケベ独自作成のデータのため、仕様の解釈等、メーカー公式データとは異なる可能性がございます。予めご了承ください。
違いその1:重量 ~60%軽量化!~
まず、特筆すべきはその重量。樹脂製筐体を採用したことにより、シンセ鍵盤モデルではFANTOMと比べて40%弱の重量しかありません(!)。ピアノタッチ88鍵モデルでもほぼ半分近い軽量化を実現しています。FAシリーズと比較しても、FANTON-06はほぼ同じ、07/08に至ってはむしろ軽く仕上がっております。
勿論、FANTOMのズシリとした重量は、筐体の剛性や演奏時の安定性を考慮したものではあるのですが、それでもこの軽さは魅力的です。ソフトケースでの電車移動も苦にならないサイズになったFANTOM-0・・・優勝!
違いその2:デザイン
樹脂製筐体ならではの、テーパーの付いた射出成型ボディ。JV、XP、JUNO・・・連綿と受け継がれる軽量シンセのDNAを継承した、ローランドらしい質感です。そこに赤の差し色、程よく面取りされた角のRがデザインに落とし込まれ、FANTOM直系の完成度の高いデザインに仕上がっています。梨地仕上げのパネル面も傷や汚れが目立ちにくくてGoodです。
違いその3:鍵盤
各社普及タイプモデルの例に漏れず、アフタータッチ非搭載が大きな差異となります。とはいえレバー&ホイールの二段構えのコントロールとS1/S2スイッチ、そしてモジュレーションディレイ等のパラメーター次第で、表現力は充分です。
FANTOM-06/07は新設計のシンセ鍵盤を搭載。角のRの感じ等は上位モデルの鍵盤に近く、フルウェイテッドではないもののバネ感少な目、底付きの感触も良好。思い通りにベロシティがコントロールできる、価格帯以上のタッチが好印象でした。機構音も、軽量系鍵盤にありがちなバタつき感も少なく比較的静かで、これなら夜間の練習も問題ないのではないでしょうか。FANTOM-08のピアノタッチ鍵盤は、FPシリーズ等で定評あるPHA-4鍵盤を搭載。アイボリーフィールのしっとりタッチとエスケープメント付きのリアルな機構で、15kg以下の重量は文句のつけようがありません。
違いその4:ディスプレイ
この世界で3年の差は大きいです。5.5インチと一回り小さなディスプレイながら、解像度は向上し、より精細で鮮やかな表示を実現しています。
シーンセレクト画面から、ZONE VIEWボタンを押すことで5種類の表示モードが順番に切り替わります。全16ゾーンの情報を一覧表示させても、必要な情報をしっかり読み取ることができますね。
もちろんタッチパネル対応。スマホ感覚で直接シーンを選んだり、モーションパッドで複数パラメーターのX-Y軸コントロールにも勿論対応します。もちろんスマホと同様の静電容量式ですから、感圧式の様な「柔らかいフィルムを強く押して表示が滲む」、あのビクビク感はありません。
違いその5:音源
こちらもほぼFANTOMな音源部。パッチ&パフォーマンスの区別が無く、16パートの音源&エフェクトが予めスタンバイ状態の「シーン」が基本。そのままシーケンサーを使った楽曲製作やパフォーマンスに雪崩れ込める「No Mode」ストラクチャーはそのままです。
但し、V-Pianoエンジンの搭載はFANTOM-0では残念ながら見送られました。Super Natural Acoustic Piano音源は搭載されていますから、V-Pianoの「変態」モデリング領域でをこね回す目的ではなく、普通の(というか超リアルな)ピアノの演奏目的であれば無問題。一方で、バーチャル・トーンホイールオルガン音源はちゃんと搭載されていますので、ドローバーコントロールやパーカッションの挙動等に拘るオルガニストも安心です。
Roland Cloudから提供される、各種拡張音源にも勿論対応。但し、一部FANTOM-0非対応のパッケージが存在するため、FANTOMと完全に同じではない点は注意が必要です。
複数パートでも音切れの無い音色変化を実現する、「トーンリメイン」機能は16→8ゾーンに減少していますが、こちらも余程変態アンビエントなパフォーマンス時でなければ気になるものではないかと思います。
ちなみに、音色データもFANTOMとFANTOM-0とでは互換性があります(該当しないパラメーターは無効)。自宅スタジオではFANTOM、ライブではデータを移してFANTOM-0を持ち出す様な二刀流もOKです。
パネル上の操作子も、ほぼそのまま踏襲していますが、10bitコントロール対応の「サウンド・モディファイつまみ」のみ、カットオフ&レゾナンスの2つに絞られています。他パラメーターはCUTOFFつまみの機能切替で対応する形ですね。
アナログフィルターの有無も音源部分の違いとなりますが、こちらもZEN-Core音源のモデリングフィルターがあれば、楽曲製作/表現ツールとしては充分です。個人的な意見ですが、FANTOMのアナログフィルターはいざ使おうとするとルーティング面の制約も多く、多分に「趣味的」領域に踏み込んだ領域ですから(それはそれで大事ですがw)。
違いその6:シーケンサー&サンプラー
此処は項目を設けるほど違いはありません。クリップ・スタイル(Ableton Live的なアレ)のシーケンサー、キーボード・サンプラー、パッド・サンプラーは基本的にほぼ同一。
パターンが出来たら並べてソングを作ったり、ピアノロールでエディットしたり、TR-RECモードでリズムをプログラムしたり、手軽にリズムパターンを呼び出したり。ハードとソフトの良いトコ取りな制作環境もFANTOMそのまま。
スペック表を作っていて気付いたのが、シーケンサーのパターン長。FANTOMが最大32小節なのに比べて、FANTOM-0は倍の64小節パターンに対応しています。タイムライン・シーケンサーに近い、ループ主体ではない曲作りを行うのであれば、むしろFANTOM-0の方が適しているかもしれませんね。
また、SMFファイルのインポート/再生については、FAMTOMがパターンへのインポートのみ対応しているのに対し、FANTOM-0ではパターンへのインポートに加え、独立したSMFプレーヤー機能が搭載されています。
キーボード・サンプラー部の波形メモリの容量が異なることが大きな違いとなりますが、大容量マルチサンプルの自家製ユーザー波形を扱う様な変態さんでなければ問題ないでしょう。フレーズサンプリング主体のパッド・サンプラー部のメモリーに差異はありません。
その他諸々・・・
1024段階の高解像度コントロール可能なツマミの数やCV/Gate出力、他入出力端子も「一般的な用途であれば充分」な範囲に整理されています。あとは電源がACアダプターになっていたり、価格帯から見てDA/ADも恐らく異なるものが採用されていることで、アナログ出力の音質に関しては完全に同クオリティとは言えないかもしれません。但し実機を試奏した限られた条件下での印象のみになりますが、特にレンジが狭いとか解像度が低いとかいう印象は全く無く、気持ちよく演奏できたことは強調しておきましょう。
最後にちょっと気になった点を・・・。
ローランド伝統のピッチベンド&モジュレーションレバーに加え、2つのホイールが搭載されているのは嬉しい配慮ですが、ホイールの位置がちょっと気になりました(これはFANTOMシリーズでも感じたことですが・・・)。07、08共に、筐体の左上端にレイアウトされているため、とにかく遠い(笑)!もう少し鍵盤奥に移動するか、某メーカーの様に斜めに配置する等であれば、高音域での演奏時により積極的にホイールを活用できるのかなと感じました。デザイン的には、こっちの方が格好良いんですけどね!
あとは、歴代モデル含めたモデル名のややこしさが増した気がします(笑)。初代FANTOMと現行FANTOM、更に0が付くか付かないか。エクセルに数字だけ入力したら危険ですねw
FA-0xはFANTOM-0xの略ではなくて別モデル。中古品含め、購入検討の際はご注意ください。
まとめ
しつこい位繰り返していますが、普通にFANTOMです(笑)。過剰な機能を整理して、劇的な軽量化を実現しつつ、ツール/楽器としての基本性能はそのまま残した製品と言えるでしょう。
アクセル・ハートマンのデザインと質感、趣味性の高い変態領域に拘りたい方はFANTOMを。
機動性重視、そして余程のハードコアな方でなければ、FANTOM-0を選ぶのが・・・コスパ抜群、お財布にも優しくて僥倖ッ!
3月25日発売・予約受付開始
今回チェックできたのは76鍵モデルと88鍵モデルの2種類でしたが、勿論61鍵モデルも含めたフルラインナップでの発売となります。
何れも2022年3月25日・・・間もなく発売開始です!
Fantom-06 販売価格148,000円(税抜)
シンセタッチ61鍵モデル/重量6.0kg
Fantom-07(76key Model) 販売価格179,000円(税抜)
シンセタッチ76鍵モデル/重量7.0kg
Fantom-08(88key Model) 販売価格199,000円(税抜)
ピアノタッチ88鍵モデル/重量14.8kg
キャリングケース・プレゼント・キャンペーン実施中!
期間:2022年3月25日(金)~
※発売日前のご予約注文もキャンペーン対象となります。ケースの予定数がなくなり次第終了となります。
内容:対象製品をお買い上げの方に、各モデル対応のオリジナル・キャリングケースをプレゼント!
対象製品:FANTOM-06、FANTOM-07、FANTOM-08
※FANTOM-06/07はリュックタイプ、FANTOM-08は手提げタイプのケースとなります。